エンディングストーリー ~夫婦の思い出を傍らに~⑭

「主人が亡くなりました」か細い声で奥様から電話が入りました。数年前にお父様のお葬式をお手伝いしたばかりのご家族で、電話を受けたエンディングプランナーの中村雄一郎も一瞬、状況が呑み込めませんでした。あの時に喪主を務められ、一緒に式を作ってくださったご主人様が急逝されたのです。中村の胸にも、急に悲しみがこみ上げました。

病院へお迎えに上がり、かぐやの里メモリーホールの霊安室にご安置。奥様に深く頭を下げ、お葬式の話の前に状況を伺いました。ご主人様は少し病気がちでありながらも、夫婦でお店を営み、旅行やキャンプを楽しむお二人でした。常に寄り添い、笑顔を分かち合うご夫婦。だからこそ、奥様の悲しみは深く、その表情から痛いほど伝わってきました。

やがてご友人方も弔問に訪れ、キャンプやアウトドアを共にした思い出を語ってくださいました。写真を見せていただくと、夫婦でカヌーに乗り、笑い合う一枚がありました。実は「またみんなで行こう」と約束をしており、そのために二人乗りのカヌーを新調したばかりだったのです。奥様はそのことを思い出すのも辛そうでした。そんな中で、ご友人たちは「ご主人様らしい形で送ってあげたい」と協力を申し出てくれました。

お葬式の式場には、ご主人様のためにと奥様は白と黄色の洋花を基調とした明るい祭壇を選ばれました。そして祭壇には夫婦や仲間たちとのたくさん写真が飾られ、その脇には大切にしていた二人乗りのカヌーが置かれました。実はご友人たちが大型車で会場まで運んでくださったのです。カヌーの上には、ライフジャケットを身につけ微笑むご夫婦の写真が飾られました。奥様はその姿を見つめながら、もう一緒に出かけることは叶わないけれど、これからもご主人が遠くから見守ってくださると感じておられました。参列された方々も、その光景に胸を打たれました。「まるで今からまた旅に出かけるようだね」と語る人もいれば、「こんな送り方ができるなんて、ご本人も喜んでるよ」と涙ぐむ方もいました。お葬式の場は本来、別れの悲しみに包まれるものですが、この日ばかりは「夫婦の人生の物語」が温かく語り継がれるひとときとなったのです。

奥様は祭壇に並ぶ写真を見ながら、「これからも一緒に歩んでいると思いたい」と静かにおっしゃいました。その言葉には、伴侶を失った深い悲しみと同時に、これからの人生を一人で生きる覚悟が滲んでいました。ご友人やご親族の支えを受けながら、奥様が少しずつ前を向いて歩まれることを願わずにはいられませんでした。仲間に囲まれ、夫婦の絆に包まれた旅立ち。そこには、確かに「人生を共に歩んだ証」がありました。

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