エンディングストーリー ⑧響き続ける音色 ~父が残した太鼓の記憶~
お父様が静かに旅立たれて、かぐやの里メモリーホールでお葬式を執り行うことが決まりました。 遺された家族は突然の別れに戸惑い、何をどう進めてかもわからない状態で、対応したのがエンディングプランナーの中村雄一郎でした。 中村は、病院から故人をお迎えし、ご安置するまでの一連の流れを進めてご家族に寄り添いました
「故人様の人生をしっかりと見送るお手伝いをさせていただきたい」と、中村は家族との会談を始めました。故人様は昔は商店を営んでおり、自宅兼店舗で家族で暮らしていました。二人の子ども達は学生の頃まで一緒に暮らしていましたが、卒業とともに家を出て、それぞれ遠方で生活するようになりました。そしてお母様が先立ち、お父様は長らく一人暮らしをしていたのです
「父ともっと話していたらよかったな…」と今では人の親となった子ども達がポツリと漏らしました。 年に一度、二度目の帰省では、深い話をする機会も少なくなり、今となっては父親の日常もわからず、お付き合いの範囲もわからないため、お葬式は家族親族だけでこじんまりとやりたいということでした
中村は家族の希望を聞きつつも、故人様について深くインタビューをしました。「お父様はどんな方だったのですか?」と問いかけると、出てきたのは意外なエピソードでした。家族とのエピソードは多くなかったのですが、地域の活動として子どもたちに太鼓を教えていたとのこと。その話を聞いた中村は何かが動き始めるのを感じました。
翌日に中村は地域を訪ね歩きました。 家族葬で執り行うため訃報を公にすることは避けつつ、故人様が携わっていてた太鼓に関する情報を密かに収集したのです。 調査の結果、故人様が指導していた太鼓団体が今も活動していることがわかりました。更に、その団体の代表者と接触することができました。 代表は中村の訪問に驚きながらも、「実は、私が子供の頃に故人に太鼓を教えて貰っていたんです」と語りました。「先生の音色が、私の原点でした。あの太鼓がなければ、私は今ここにいないでしょう」その言葉を聞いた中村は、思いました。この太鼓の音色を届けたい。 家族に、そして故人様に。
通夜と葬儀は、予定通り家族と親族のみで執り行われました。静かな式が終わりに近づいたそのとき、式場の後ろに大きな太鼓が二つ、静かに設置されました。そして太鼓団体の代表が、法被姿で家族の前に立ち「お父様がこの地域に残してくださった太鼓の音は、今も私たちに受け継がれています。その音をここで届けて、故人様に敬意を表したいと思います」そう言って、力強い太鼓音が響きました。それはホール中に響き渡り、その音はまるで故人様の人生を讃えるかのように響きました。その音を聴きながら、家族は父が残した大きさを感じました。
太鼓の音に、棺の中に眠る故人様にも届き、そして家族の心にも深く響きました。 その音色を聞きながら、家族は父親の知られざる一面を知り、誇りを抱けたことが、中村にとって何よりも一番嬉しかったことでした。太鼓の音と共に、故人は最後の旅に出ました。その音は、これからも地域に響き続け、故人様が残した遺産として繋がっていくことでしょう。 中村は、一つの人生が去っていくの見届けながらも、新たな世代に繋がるものがあるのだと心に刻みました。