エンディングストーリー ⑬                 ~夏の夜、最後の花火~

夏の暑い盛りのことでした。「父が亡くなりました」かぐやの里メモリーホールに一本の電話が入りました。

エンディングプランナーの中村雄一郎が施設へお迎えに伺うと、そこには奥様とお子様、お孫さんたちが大勢集まり、静かに最後のときを迎えていました。晩年は施設での生活が長かったこともあり、真夏の自宅安置のリスクを考え、ホールの霊安室へ安置することになりました。
「できるだけ父のそばにいたいんです」ご家族の強い想いに応え、個室タイプの霊安室を準備し、時間を気にせず、家族だけで穏やかなひとときを過ごしていただきました。その温かな光景を目にしながら、中村は心の中で思いました。――本当に家族に愛されていた方だったのだな、と。

やがて、ご家族が故人様の思い出を語り始めました。富士市でも中心街から少し離れた静かな地区で、奥様と二人暮らしをしていたお父様。お子さんたちが家庭を持ち、家を離れてからは、お孫さんが遊びに来ることが何よりの楽しみでした。もともとは自分たちが食べるために作っていた庭の畑も、いつしかお孫さんと一緒に収穫を楽しむ畑に変わりました。芝生の場所には遊具が並び、お孫さんたちが駆け回る声が響いていたといいます。娘さんは微笑みながら話してくれました。
「寡黙な父だと思っていました。でもおじいちゃんになったら、あんなに笑って遊んでくれるなんて。子どもにとっては、本当にありがたいおじいちゃんでした」

「じいじにブランコを教えてもらったよ」「じいじと夏に虫取りをしたんだよ」お孫さんたちが楽しそうに思い出を語る姿を見て、中村は改めて、この家族がどれほど仲が良かったのかを感じました。そして、たくさんの思い出を胸に、家族はこう話しました。「悲しいけれど、笑顔で送ってあげたいんです」中村は少し考え、そっと提案しました。
「故人様が一番喜ぶことを、最後にしてあげませんか?」

すると、みんなの口から自然と出てきたのは――花火。

夏休みになると家族みんなで庭に集まり、花火をするのが毎年の恒例だったそうです。
おじいちゃんはそのためにたくさん花火を買い込み、孫たちと一緒に遊ぶのを心から楽しみにしていたのだといいます。「最後に、みんなで花火をしましょう」そう提案すると、家族全員が顔を見合わせ、うなずきました。

お通夜の日。お孫さんたちが花火を手に、ホールへやって来ました。お寺様の読経が終わると、家族は準備を整え、故人様のお棺と共にホールの駐車場へ。夜風の中、家族だけの最後の花火が始まりました。パチパチと音を立てる花火に、お孫さんたちの笑い声が響きます。棺の蓋は半分開けられ、そこには静かに微笑むおじいちゃんの姿。
「これは揺らすと火が落ちちゃうんだよ、じいじが言ってたよね」
最後の線香花火を家族全員で囲みながら、思い出話が絶えませんでした。そして、最後に一本だけ残した線香花火を、長女さんがそっとお父様のもとへ運びました。「また一緒に花火をしようね。お父さん、最後までありがとう」優しく語りかけながら灯された線香花火の光は、まるでおじいちゃんが家族の笑顔を見守っているかのようでした。

――花火の煙が空へと昇るように、故人様の想いもまた、家族の心の中にそっと刻まれていきました。

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