エンディングストーリー ⑩ 思い出の場所へ

今回のお話はかぐやの里メモリーホールのエンディングプランナーの中村雄一郎さんが初めて担当したお葬式のお話を伺いました。これまでエンディングプランナーとして数千件のお葬式をプランニングしてきた中村さん。それぞれ規模も場所も形式も違うお葬式ですが、エンディングプランナーとして「お客様のために何が出来るか?」を考えて運営とアイデアを出し続けてきました。今回は原点とも言える、エンディングプランナーとして最初のお葬式ストーリーです。

エンディングプランナーになる前の半年間は下積みでした。29歳で葬儀業界に飛び込んだ中村は、これまでお葬式に参列することはあっても運営側に回ったことはありませんでした。お葬式素人であったので、倉庫番や事務サポートなど行いながらお葬式の知識を深めました。それからお葬式の現場の設営およびサポートとなりました。裏方の仕事ながらも、エンディングプランナーが様々な準備の下で素敵なお葬式を創り上げる現場を目の当たりにしていました。葬儀サービスは一般的に滞りない式の運営で合格点が貰えますが、エンディングプランナーの運営はお客様の想像を超える感動的なもので、お客様が涙する場面に立ち会うたびに自分もエンディングプランナーとしてお客様の役に立ちたいと想いが強くなっていきました。そんな下積みを8カ月間積んだ後に、ついに直葬(火葬式)のお手伝いを私がすることになったのです。
ご逝去されたのはお父様。ご家族は娘2名様のみでした。娘様たちが成人になった頃に奥様と離婚されてそれ以来ずっとお一人暮らしでした。しばらくは疎遠状態でしたが、お孫様が生まれてからは年に数回会うようになったそうです。独り身のお父様だから、晩年は施設に入所して最後を迎えました。自分の最後は迷惑をかけないと最低限のお葬式費用を娘様に預けていたそうです。
直葬(ちょくそう)というお葬式をせずに火葬炉の前で10分程度のお別れをするのみのシンプルな形で、会葬も娘2名のみとなりました。このような場合、ほぼ準備や設営が無いことから、打合せをあっさり終わることがほとんどですが、中村は故人様のことをじっくりお聞きすることにしました。
故人様は宝石の輸出入や販売の仕事をしており、バブル期は相当に忙しく稼ぎも良かったそうです。その代わり仕事が忙しく家にいることも少なかったそうです。東京都上野のアメ横商店街はよくテレビにも出てくる小売りの安売り商店街ですが、その隣には実は宝石商の会社もたくさん存在しています。故人様も上野の宝石商に勤務していました。しかし時代と共に商売も下降気味となり、晩年は質素な生活となっていたそうです。「現役の時は正にバブルな生活や格好をしていたよね」と娘様たちは振り返ります。忙しいこともあり、共に生活していたころに故人様との思い出はほとんどないそうです。
そんな中で、子供の頃に唯一楽しかったのが、お父様が休日に会社に行く際に、時々に娘様たちを連れて行ってくれたそうです。会社でキラキラした宝石を眺めたり、帰りにアメ横でチョコレートを買ってくれた。「結局は仕事に付き合わされたけど、子供ながらに楽しかったよね」と数少ない思い出を語ってくれました。

火葬日の当日。朝一番の火葬であったので朝8時過ぎには火葬場に行く必要があります。始発電車が動く朝4時に上野駅にエンディングプランナーの中村がいました。そこから娘様たちが幼少期に過ごしていた埼玉県の駅に移動。それぞれの駅であるものを手にして火葬場に向かいました。
直葬では最後にお顔を見てお別れする時間も10分程度しかありません。お花を入れてお洋服などかけていただいて、あっという間の時間です。もう火葬の時間が差し迫る終盤に中村が取り出したもの、それが電車の切符でした。「ここに3名分の行きの切符と帰りの切符があります。かつて親子3名で通った場所への切符です。お二人にとって素敵な思い出となっているのであれば、お父様にとっても同じだと思います。その思い出を忘れないでいてもらうためにもこの切符を入れてあげてください。」と中村が差し出しました。今はタッチ決済で切符を買うことも少なりました。だからこそ余計に駅名の入った切符を懐かしみ、更には今日の日付の切符であることに驚いていました。「お父さん!またいつか遊びに連れて行ってね!」と涙ではなく笑顔で切符をお棺に手向けてくれました。時間が少ないお別れでしたが、かつての親子の姿がそこにはありました。
それから4年後。街で偶然、娘の一人に再会したのです。

「実は、しばらく経ったあとに姉と上野を散策してきたんです。父との思い出をたどりながら、昔の宝石店をのぞいたり、アメ横でチョコレートを買ったりしました。懐かしい時間でした。」
娘様の目には、優しい笑みが浮かんでいました。ふとしたきっかけで、過去の思い出が蘇り、新しい時間が生まれる。中村にとって、その言葉は何よりも嬉しい報告だった。
お葬式とは、故人を見送るだけのものではない。それは、遺された人の心に、温かな灯をともす時間なのだ。この経験から、中村はますますエンディングプランナーとしての役割を深く理解するようになった。それ以来、どんなに小さな葬儀でも、一つひとつの家族に寄り添い、故人と遺族の物語を大切にすることを誓いました。