エンディングストーリー ⑪ 最後のプレゼント

エンディングプランナー。それは、お葬式の儀式を滞りなく運営進行する葬祭ディレクターの役割に加えて、家族のために何が出来るかを考えて創り出すスペシャリスト。100名いたら100通りのお別れを創り出し、悲しみの中にいる家族に寄り添います。これは、かぐやの里メモリーホールの、ある一人のエンディングプランナーの実際のお別れストーリーです。

「母が亡くなりました。お葬式をお願いしたいです」。その電話は静かにかかってきました。受話器越しの声は若い女性のものでした。言葉は短く、しかし滲み出るような悲しみがそこにありました。

エンディングプランナーの中村雄一郎はすぐにその声を聞き、富士中央病院へと急ぎました。病院に到着した中村を出迎えたのは、哀しみを湛えた瞳のご家族。そこには、お母様を見送ったばかりの旦那様と年の近い三姉妹が寄り添い合って立っていました。その姿は、まるで一本の木を囲むように、穏やかでしかし強く、亡き母の温もりを互いに分け合うように、深くつながっているようでした。

「母は、最期まで頑張ってくれました」。静かに語るその言葉に、中村は深く頭を下げました。病との闘いの中で、家族は交代でお母様に寄り添い、どんなに小さな希望の光も見逃すまいと、日々を共に過ごしてきたのだといいます。

最後の瞬間も、しっかりと家族の手のぬくもりを感じながら、お母様は静かにその生涯を閉じられました。

「一度、自宅に帰してあげたいです」。その願いに応え、ご自宅へとお連れすることになりました。ご自宅に着くと、室内はきちんと整えられ、どこか懐かしい温もりがありました。長年の暮らしが染み込んだ空間。カーテンの揺れ、壁に飾られた家族写真、そして居間の一角には、いつもお母様が座っていたという椅子がぽつんと佇んでいました。その場所に、お母様をそっとお連れした時、三姉妹は小さく微笑みました。「お母さん、おかえり」、

そう聞こえてきたような気がしました。打合せの中で、ふと長女様が話してくれた言葉がありました。「かぐやの里メモリーホールでお葬式をしようって、前から言ってたんです」。その言葉に中村は驚くと同時に、深い感謝の念を抱きました。

自宅から近い葬儀場がある中で、わざわざ弊社を選んでくださったこと。その理由を尋ねると、そっと語ってくれました。

「母はお花が大好きで、そしてとってもお洒落な人でした。以前、知人のお葬式で参列したときに、かぐやの里の生花祭壇が本当に綺麗で、洋風で優しい雰囲気がずっと印象に残っていました」とのこと。その言葉に、涙がこぼれそうになるのをこらえながら、中村は心に誓いました。

「このご家族の想いを、必ず形にして送り出そう。たった一度きりの『ありがとう』を、最高のかたちで、届けよう」。そこから様々な趣向を凝らしたのです。

一般的には、用意されたカタログから祭壇を選ぶことが多い中で、今回はご家族と一緒に一から色合いや形など雰囲気を考えました。お母様が生前愛していたハワイの風景をイメージして、明るいトロピカルカラーの花々を中心に生花装飾を施し、お気に入りだったというハワイアンドレスも飾りました。まるでお母様が微笑んでいるような、華やかで優しい空間がそこに生まれました。長女様は有名な書家であったので、お母様のために筆を取り、その書を祭壇へ組み込みました。

また次女様はプロのパティシエとして、お母様の好きだったスイーツを一つ一つ手作りしました。

すべてがお母様への「ありがとう」を形にしたものでした。とても仲の良いご家族。実はたくさんお話しする中で一つのエピソードが出てきました。

「来月、ディズニーランドに行く予定だったんです。お母さんの誕生日に」。その言葉が胸に残って離れませんでした。お母様が笑いながらパークを歩いている姿が自然と浮かびましたが、その願いは永遠に叶うことのない約束になってしまった―。

そのことを、家族はどれほど悔やんでいるだろう。中村は痛切に感じました。葬儀当日。会場にはたくさんの方々が駆けつけ、お母様との別れを惜しみました。

そして出棺前のお別れの瞬間、中村はそっと封筒を家族に渡しました。

中には、ディズニーランドのチケットがありました。「本当なら、お母様と一緒に行くはずだったお誕生日の旅行。その夢は叶わなかったけれど、どうかまた一緒に行けるようにチケットの1枚を、お母様の手に持たせてあげてください。きっと天国でもその日を楽しみにしてくれているはずです」。

そのチケットに記載されている入場日はお母様の誕生日指定のものでした。家族はそのチケットに最後のメッセージを書いて、棺の中のお母様の手にそっと1枚添えました。

もう一緒に行くことは叶いません。それでも心はつながっている。その想いが、そっと空へと昇っていきました。

後日、ご家族から中村に連絡がありました。「ディズニーランド、行ってきました。母の写真も一緒に連れて行って。まるで母も隣にいるようで、ようやく果たせた気がします」。それを聞いた中村は、静かに目を閉じました。どうか、空の上でも、あたたかな笑顔で見守ってくれていますように。

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