エンディングストーリー 水入らずの時間

エンディングプランナー。それは、お葬式の儀式を滞りなく運営進行する葬祭ディレクターの役割に加えて、家族のために何が出来るかを考えて創りだすスペシャリスト。

100名いたら100通りのお別れを創り出し、悲しみの中にいる家族に寄り添います。

これは、かぐやの里メモリーホールの、ある一人のエンディングプランナーの実際のお別れストーリーです。

「父のことで相談したいのですが…」と、30代の若い女性がホールに来ました。彼女は一人暮らしをしている実父の容態が良くないことを心配しており、一人娘としてどうすればいいのかわからずに、相談しようと葬儀社を訪ね、エンディングプランナーの中村が対応しました。

中村は彼女の話をじっくりと聞き、ご逝去時の流れや全体的な費用、注意点などを丁寧に説明しました。嫁いだ身として様々な課題を抱えていた彼女は、中村の話に少し安心した様子でその日は終了しました。

それから3か月後、お父様のご逝去の知らせが届きました。深夜の病院へお迎えに行き、ホール霊安室に安置しました。その夜には決められないことが多く、翌朝に打ち合わせを行うことになりました。打ち合わせには娘様本人の他に旦那様、そして旦那様の両親が同行しました。

そこで少し気になる事が起こりました。旦那様の両親が主導となり、お寺様や葬儀の流れが決まっていったのです。商売を営む旦那様の両親は、嫁いできた娘さんの実夫ということもあり良かれと思ってどんどん進めていったのです。所々で娘様にも確認しますが、「お母さんのご意見で良いです」「特に希望はありません」と、自分の考えをほとんど口にせずになんとか進んでいきました。その表情を見ながら、中村は一抹の不安を感じました。

打ち合わせの翌日、娘様と旦那様が二人だけで面会に来ました。「嫁いでいる身として、特に意見はありません」とおっしゃる娘様。その傍らで「遠慮しなくて本音で言っていいんだよ…」と心配そうな旦那様。様々な思いがありながらも、当日を迎えようとしています。

男手一つで娘を育てたこと、理容師として働きながらも学費がかかる時期には別の仕事もしていたこと、家事が苦手で慣れない一人暮らしでも娘に心配かけまいと取り繕っていたこと。口数は少なく不器用な父親が、娘様は大好きで大きな感謝を感じていることを理解しているからこそエンディングプランナーとして、娘様の我慢を取り除き、後悔の無いお葬式にしたいと強く思いました。

通夜当日、打ち合わせ通りに葬儀の準備が進められました。実質的には旦那様の両親が主導していました。通夜式も無事に終わり、通夜振舞いの食事も終わり、会葬者もお帰りになり終了となりました。

しかし、その直後に中村が仕掛けたサプライズがありました。前日に旦那様と二人で打合せを行い、このままでは我慢したまま終わってしまうと感じた中村は、旦那様と「深夜のドライブ」を計画していたのです。

娘様とお父様が二人で暮らしていた当時の場所を巡るドライブです。それは、旦那様の両親もいない夫婦だけの水入らずの時間を作るためのものでした。

両親が先に帰宅した後に「じゃあお父さんと出かけよう」と突然の言葉に戸惑う娘様。

棺を寝台車に移動して車に乗り込みました。状況がわからない娘様に旦那様は「気を遣わせてごめんね。この時間だけは昔の親子のままで過ごそうよ」と伝えました。

すると何か詰まっていたものが取れたように大粒の涙を流す娘様。肩を抱きながら一緒に涙する旦那様。車中は明るい話題で賑わっていました。昔住んでいたアパートはもうなくなってしまいましたが、よく一緒に買い物に行ったスーパーや銭湯など巡り、懐かしい話や笑い話を笑顔で旦那様に話してくれた娘様。その傍らにいる故人様もきっと懐かしさに浸っていたでしょう。

当初は30分程度のドライブの予定でしたが、結局1時間ほど時間が過ぎていました。

ホールに戻ると、娘様の表情はとても明るく、すっきりしていました。彼女はこのドライブ計画を心から喜んでくれました。

翌日の葬儀告別式も無事に終わり、火葬も終わって終了する際に、「昨晩のドライブのことは忘れません」と丁寧にお礼を伝えに来てくださいました。この言葉は中村にとっても忘れることのできない一言となりました。

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実はこのドライブの最後にとても不思議なことがありました。ドライブを終えて棺をホールに戻した際、娘様が突然言いました。「お父さん喜んでるよ!」と。

何かと思い中村は故人様の棺を覗き込みお顔を見てみました。すると、出発前に整えていたお顔の表情が明らかに変わっており、3人がわかるくらい笑顔になっていたのです。

エンディングプランナーとして長年お葬式に携わってきた中でも、数少ない不思議な出来事の一つでした。

※こちらはK様の実際のお葬式ストーリーを、許可を頂戴して掲載しています。